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■はじめに『なんなる』とは?──────

『なんなる』って何? という方がほとんどだと思われますが、
もしご存じの方がいらっしゃいましたら、
それは「こころのアリカ」の初期のころから見て頂けている方かと思われます。

この『なんなる』というのは、『アリカプロジェクト』の前身でした。
『なんなる』は企画室をしていて、そこでいろんな企画を立ていました。
その中から制作が決定したのが『こころのアリカ』でした。
まず、試作としてHTML版の『こころのアリカ』が制作されました。
その後FLASH版に移行してそのまま制作が続行されることが決まると、
企画室としての『なんなる』は役目を終えて、
『こころのアリカ』を完結させるためのサイトとして『アリカプロジェクト』が
新たに立ち上がることになったのです。

その『なんなる』が今年で生誕10周年を数えることになりました。
それで今回、「こころのアリカ」を企画を立ち上げた『なんなる』に登場して頂き、
インタビュー形式であとがきをお送りすることになりました。
それでは「こころのイオリ」のあとがきです。




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「こころのイオリ」についてお話する前に、まずはそのお姿、
アバターについてお聞きしたいのですが、それはヒマワリですよね。

■アバターがヒマワリになっていることについて──


はい。私は今、ヒマワリのアバターをしています。 実は庭に小さな花壇がありまして、そこにヒマワリの種を植えたのですよ。一週間ぐらいで発芽して、今では背丈が20センチぐらになりました。大きく育ち大きな花を咲かすという種を植えましたので、夏が待ち遠しいです。



もう夏はすぐそこまできてますよね。 さて「こころのイオリ」が無事に最終回を迎えましたが、ご自身で振り返ってみてどうですか。華月いおりの新しい一面が描かれましたね。


■「こころのイオリ」を終えてみての感想───

そうですね。華月いおりは、夏目和也と橘ありかの両名にもっとも近しい人物なんですね。その華月いおりを4コマ×15回の60コマで演出できたのはとても有意義だったと思います。描きながら彼女のいろんな表情を得られたのはとても新鮮でした。それだけに振り返ってみると、もっとかわいく描いて演出してあげたかったなと思いました。自分の力の無さを改めて思い知ります。
それでも、その時々にできる精一杯のことはしてきたと思いますので、華月いおりの物語が伝わったのであれば幸いです。



どのコマがお気に入りとかありますか?


どのコマも思い入れがあって決められないのですが、華月いおりの表情のコマであえてあげるなら、第12回の第3コマ目ですね。

「こころのイオリ」
  第12回-第3コマ


橘ありかを見かけてその表情の変化に気付くシーンですね。
それでは次にこの四コマが制作された経緯を聞いていきたいと思います。
「スピンオフ四コマ第2弾」ということでしたが、どのような目的で制作されたのでしょう?
第1弾は夏目夏奈ちゃんのお話で、第一章-第5話を補完する形で制作されていましたが、今回もそのような目的があったのでしょうか。



■「こころのイオリ」を始めとするスピンオフ四コマの目的───

第一弾と共通しての目的は、サブキャラクターの世界を広げることで「こころのアリカ」の物語の強度を高めるといことでした。
本編の「こころのアリカ」は夏目和也の一人称視点で語られる物語なので、夏目和也が一人称で語っている限り、夏目和也が存在していない所での情報は語ることができないのですね。
当然これから徐々に知っていく情報もありますが、今の彼に関わる人やその事柄の情報の全てがその時に必要かというと、そうでもなかったりします。
でも、夏目和也にとっては知らなくてもいい情報ですが、「こころのアリカ」を読んでくださる方には知っていて欲しい。その方がより良く物語が楽しめるのではないか、そんな想いから制作を始めました。
第1弾は兄の心境の変化に戸惑う妹・夏奈が、兄の気持ちを整理する時間を、夏奈の先輩である春日野明日美と語り合うことで描きました。ここで夏奈が気持ちの整理をできたことで、兄・和也の変化を夏奈が問いつめることなく夏奈なりに受け入れることができるようになりました。

「こころのナツナ」
  第11回-第1コマ

でも、この夏奈が気持ちの整理をした時間のことを和也が知らなければならないかというとそうではないですし、まだ自分のことで精一杯の和也には知らなくてもいいことでもあったりします。
ただ、和也の人生は和也だけの人生ではなく、生きているだけで和也の知らないところで和也以外の人の時間に影響を与えているということを描いておきたかったのですね。そうしてそれは巡り巡って和也のもとに帰ってくるということも含んでいたりします。



つまり、今回の第2弾では「橘ありかが立ち直ったことで、橘ありかが知らないところで影響を受けた人がいた」ということを伝えたかったということでしょうか。


そのとうりですね。この「こころのイオリ」の制作を始めた時に一番に描いたシーンが「こころのイオリ」第10回の4コマ目のシーンでした。夏期講習に出席している橘ありかを、部活をしていた華月いおりが偶然見かけるというシーン。そこを基軸として「こころのイオリ」は構築されました。

「こころのイオリ」
 第10話-第4コマ


たしかにここから物語は大きく動きますよね。それまでは部活の日常話だったのが、そのシーンを起点に橘ありかとの関係が語られ華月いおりの心の話にシフトしていきます。そして、いおりは心の壁を1つ乗り越えてありかに声をかけることを決めます。
華月いおりが自分自身で見つけ、自分自身で気づき、自分自身で変えていく。でも、それは橘ありかは全然気づいていない。
ともすると、 これは「こころのアリカ」に共通してあるテーマなのではないでしょうか。



そうですね。「こころのアリカ」はそのタイトルの響きそのまま「心の在処」と置き換えることができます。
この物語における「心の在処」とはアイデンティティーの確立、つまり自分探しをテーマとしています。
自分探しとは何なのかを語り始めると長くなりますし、いろんな解釈があると思いますが、私は1つだけルールが存在すると思っています。それは、「自分探しをしている自分は、必ず他人より先に見つけなければならない」ということ。これは先に見つけられてしまうと、自分探しをしている人というのは帰ってこられなくなってしまうという習性があるんです。つまり永遠に自分探しの旅から抜け出せなくなる。



それは少し怖いお話ですね。永遠に暗闇をさまよい続けるみたいで。でも少し気になったのですが自分探しを終えた人はどうなるんですか?



自分探しを終えた人間は人の役に立とうと感じはじめます。これは人の真理ですね。自分探しを終えたということは「自分」を見つけたということで、それは「才能」とも言い換えることができるものであったりします。そして才能というものは他人の役に立つことでのみその存在が許されているものですから。


ということは、華月いおりも、そして夏目夏奈ちゃんもこれからの本編で大きく関わってくるということでしょうか。そのためのスピンオフ四コマでもあると。


はい。夏目夏奈も華月いおりもこれからの物語でとても重要な場面で出てきます。
そのために彼女達にこの物語における自分探しを終えていて欲しかったというのもありますね。
でも、だからといって彼女達が直接、本編の主人公・夏目和也を助けるわけではないのですよ。
これからの本編は、主人公・夏目和也にとってとても大きな壁が待っていますが、
直接助けてもらってはこの物語は終わることができません。
なぜなら夏目和也はまだ自分探しの途中ですから。
でも、その大きな壁は決して一人では乗り越えることができないものです。
さらに、その壁は人に助けてもらって解決すべき壁ではないけど、一人で解決しようとしてはいけない壁であったりしますし、無理をして一人で解決してもならない壁でもあります。
つまり、「人に助けられずに助けられ、そして助けられたことに気付くこと」。
これがこの物語のテーマの鍵となっています。


なんだか興味深いですね。本編の公開を楽しみしています。
ここで本編の話になったところで次回の本編の公開予定日をお聞きしたいのですが。



年末までにはと予定しています。できれば最後まで制作してから公開に踏み切れればと思っています。



完結にむけて動かれているのは嬉しいのですが、制作時間がかなりかかるようですね。今回の「こころのイオリ」も実質半年はかかっています。できればその辺りのことを話してくださいますか。


■制作に時間が掛かっていることについて────

申し訳ない限りです。理由は2つほどあります。1つは制作そのものにかかる時間。もう一つは私の体調の問題。
一つめの制作にかかる時間としては、「こころのイオリ」に関していえば、一番時間がかかったのが新キャラのデザインおよび設定でした。
当初、「こころのイオリ」が全12回と告知をしていた頃、吹奏楽部で出てくるのは部長だけでした。なので新キャラは琴吹さつきと部長のデザインだけで制作を進めていたのですが、ご存じのとおり第2回のUPと共に病に伏せてしまいました。
これにより、病にうなされながらも「こころのイオリ」をじっくりと推敲する時間ができてしまいました。そこで、華月いおりの魅力を伝えるためにはできるだけ多くのキャラが必要だと思ったんです。
それは自分探しを終える1つの条件としてどこかのコミュニティーに属するというのがあります。これは他人とふれあい他人を見ることで、自分の姿を浮き彫りにするという心理があるからですね。
今回は吹奏楽部というコミュニティーに華月おいりは属することになりました。そこで、部活というコミュニティーを伝えるためにはやはりそれなりの部員を出さなければ伝わらないだろうということに至ったのです。


「こころのイオリ」が三回増えたのはサックス華組と副部長さんの出番ができたからなんですね。そして、その部員のキャラクターデザインに時間がかかったと。



はい。その部員のデザインが思いの程時間が掛かりました。
「こころのイオリ」では描かれていませんが、各キャラクターの性格や好み・対人関係はもちろん、家族構成やその部に入っている経緯やその部での立場などを決めていきましたから。たとえ表にでない設定であろうとそうしないと、なにげにない仕草とか台詞1つにしても迷いがでてしまい、どこかとってつけたようだったり借り物のような感じがしてキャラクターとして生きてこないのですね。
デザイン当初はトランペットチームも登場予定でしたが、そこまですると尺の都合もあるし、やりすぎだろうと言うことで、トランペットチームはお蔵入りとなりました。ちなみにトランペットチームはとても楽しいおしゃべり好きなチームとしてデザインを進めていましたね。彼女たちは別の階の階段の踊り場で練習しているはずです。



また機会があればそのトランペットチームの登場も楽しみにしたいものです。
今回は吹奏楽部が舞台ということで楽器も作画されてましたね。楽器関係はどうでしたか?



楽器は写真の資料がありますので、それを参考に作画を進めていけました。
ただ、写真だけではわからないことがありまして。一番わからなかったのが、楽器そのものの存在感でした。これはちょっと足を伸ばしたところに中古楽器を買い取っているお店があったのでそこで実物の存在感を確認して参考にしました。あと、駅前の広場でちょうどジャズバンドコンサートが開かれていた期間がありまして、ここにも足を運んで見てきたりもしました。3種類のサックスやトロンボーン、パーカッションの奏者のライブを目の前で見れたことはとても参考になりましたね。さらに、小さなお店でサックスのソロコンサートがあって、それも聞きにいきました。どちらもカッコイイと体で感じられたのはとても貴重でしたね。
この経験がサックス華組や琴吹さつきの作画に生かされていればいいなと思います。

「こころのイオリ」
 第09話-第3コマ
「こころのイオリ」
 第13話-第3コマ



あともう一つ時間が掛かっている要因として体調とありましたが、これはどういうことがあったのでしょう。無理をしていたということでしょうか。


お恥ずかしい限りですが、正確には我慢していたということでしょうか。
いままでどんなに体調が悪くても医者の世話にはならなかったのですが、今年の始めごろにとうとう医者の世話になりまして。そこで言われたんですよ「そうとう我慢していたんじゃないんですか。もうちょっと早く来て頂ければ症状も軽くすんでいましたのに」と。
それを聞いたとき始めは素直にその言葉が理解できなかったのですが、日々通院をしてのその帰り道とかでよく考えるようになったんです。私は何を我慢していたんだろうって。
それで、 一度我慢するのを全部辞めてみようと思ったんです。自分が我慢していたと思うことを書き出してそれを片っ端からやめていったり、改善したりしていきました。
その結果、大きく変えたのは3つの要素でした。
それは、 食事・睡眠・休息。
そのためにまずは制作部屋の引っ越しから始めました。
いままでは少しの時間でも惜しいと思って食事、睡眠を同じ作業部屋でとっていました。作業画面を見ながら、おにぎりやサンドイッチ、弁当を食し、作業時間を少しでも長く取るために制作部屋に毛布を持ち込んで仮眠を取っていたりしました。
でも、これは私は好きでやっていたのではなく、我慢してやっていたことに気づいたのです。
さらに、私はそうやって食事や睡眠を我慢というか犠牲にすることで、制作への力に変えていたところがあったことにも気づけたんですね。
我慢と犠牲によって成り立つ制作環境。
こんな環境で続けていて体調がおかしくならない方が不思議です。
医者に言われた我慢の意味がようやく理解できた瞬間でしたね。
そう気付いた私はさっそく、制作、食事、睡眠が別々にとれるように引っ越しをしました。
制作専用の制作室。食事専用の食堂。睡眠専用の寝室。
始めのうちは食事だけを専用の食堂で取るというのに抵抗がありましたが、今では逆に制作のことは忘れて食事を食堂で取るということがとても有意義に思えます。おいしいものを遠慮せずにおちついておいしいといって集中して食べることの大切さを実感しています。
これは睡眠に関しても同じで、今までは睡眠時間を取ることに罪悪感をもってしかたなく睡眠をとっていましたが、寝室で集中して布団を被って寝るようにしてからは、目覚めもよく、その日の一日の始まりを気分良く送れる日が多くなりました。
さらに、休息専用の休憩室というのも用意しました。
これは、制作部屋に入らないで休息をとる必要があると思ったからでした。今までは休息を取るとっていも制作部屋にいて休息をとっていましたので、休息と称していてもどこか後ろめたさが抜けず、休息をしていても制作のことを考えていたりして、ぜんぜん休息にはなっていませんでした。つまり、我慢して休息をしていたということですね。
これではなんのための休息かわかりません。
よって、休息するときは休息専用の休憩室に入って集中して休息を取れるようにしました。
まだ完全にものにできているわけではありませんが、集中して食事や休息、睡眠を取ることができる時が徐々に増えてきました。
始めはなかなか出来ませんでしたが、それらが少しずつできるようになってくると、体調も回復してきまして、制作も我慢や犠牲を強いることなく進むようになりましたね。
このサイクルを維持し改善していき、より健全な制作体勢で本編制作へスライドしていきたいと思います。



「こころのアリカ」が企画されてから10年が過ぎました。その間、いろんなことがあったとおもいますが、「なんなる」から「アリカプロジェクト」に移行しても、「こころのアリカ」を途中で打ち切ることもなく続けています。ここまでこれたのはどうしてだと受けて止めていますか。


大変長い時間が掛かっているにもかかわらず、暖かい言葉のメッセージを送って下さる方のおかげだと思います。何度ももうだめだと膝をつきかけても、支えてくださり応援してくださる声のおかげで何度も前を向きゴールに向かって進むことができました。
何度勇気づけられたかわかりません。本当に感謝しています。
このご恩は「こころのアリカ」を完結させることで、お返ししたいと強く思っています。


その日を楽しみにしています。本日は、ありがとうございました。


ありがとうございました。

(2010年6月18日)

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